大判例

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大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1867号 判決 1973年10月30日

控訴人 米本儀之助

右訴訟代理人弁護士 鎌倉利行

高野裕士

坂恵昌弘

被控訴人 獺畑喜代子

右補助参加人 大川正行

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本件申立を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも、参加によって生じた部分は参加人の負担とし、その余の部分は被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は主文第一、二項同旨、「訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人および補助参加人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

(被控訴人の主張)

一、神戸地方裁判所尼崎支部所属の執行官清水喜代一は昭和四二年一二月三〇日申請人を控訴人、被申請人を被控訴人ほか三名とする神戸地方裁判所伊丹支部昭和四二年(ヨ)第一三一号不動産仮処分命令(ただし、その内容は原判決二枚表三行目から一二行目までに記載のとおりであるからこれをここに引用する。)に基き、原判決末尾添付目録記載の土地(本件土地)につき仮処分の執行をした。

二、しかし、右執行官の強制執行は左の点において違法である。

(一)  執行官が現実に被控訴人ほか三名の占有を解く等の執行をした土地の範囲は原判決末尾添付図面記載の緑色線で結んだ範囲であったが、前記仮処分命令の記載によっても右のような土地の範囲を特定することはできない。すなわち、本件仮処分命令はその執行すべき土地の範囲を特定するため、(イ)ないし(ヨ)で表示される地点等を定めるにさいし、たとえば、(ロ)点の場合、「これより逆瀬川に沿って設けてある砂防ダムの諭鶴羽橋から数えて上流に六番目の砂防ダムの右岸ダムと岩壁の角から川に沿って上流へ壱六六尺行った右岸の川肩の地点」と表示し、ついで((イ)点より北西四十五度距離百六十二間)として、これに方位と距離を付する方法をとっている。ところが、右に記載の方位と距離によって各定点を追っても緑色線のようにはならず、かえって、赤色線のような形となり、その位置が全く異なるのみならず、その形状も起点と終点が一致せず、閉じない形の包囲線を現出するだけとなる。したがって、このような仮処分命令によって前記のような範囲の土地の執行をすることは違法たるを免れない。

控訴人は、仮処分命令記載の県道、標石、松の木等によって執行の範囲は十分特定することができる。方位、距離の誤りは些少である旨主張するが、標石や松の木は不動のものではないから、これによって土地の範囲を特定することはできない。また、仮処分命令記載の方位、距離の誤りは大きい。広大な面積の土地を特定するさいに、二度三〇分ないし一五度三〇分もの誤りがあれば、到底これを些少ということはできない。

(二)  執行官は本件強制執行にさいし、山野文治郎を証人として立会させたが、同人は控訴人の雇人とまでいわれるほどの人物であるから、事件関係人というべきであり、本件執行は執行官手続規則一五条に違反するものである。

三、よって、被控訴人は前記清水執行官の執行の取消しを求めるため本件異議申立に及んだ。

(被控訴人補助参加人の主張)

控訴人は終始本件土地を所有するものと主張して本件仮処分の本案訴訟を追行してきたものであるが、実は、本件土地はその一審判決の言渡がある前である昭和三二年三月二九日すでに控訴人から社団法人宝塚ゴルフ倶楽部に売却されて所有権が移転していたものである(その登記は昭和四八年三月一二日)。したがって、控訴人は本案訴訟(その上告審の判決言渡しは昭和四一年一二月)において勝訴確定したが、これは控訴人が裁判所や被控訴人を騙してした裁判であるから無効であり、本件仮処分命令も同じく無効である。無効な仮処分命令による執行は違法である。

(控訴人の主張)

一、被控訴人の主張一の事実は認める。

同二の事実中、仮処分命令記載の方位と距離のみによって土地の範囲を特定していくと被控訴人主張のように赤色線となること、現実に清水執行官が執行した土地の範囲が緑色線であることは認めるが、その余の事実は争う。

本件強制執行はその方法において何らの違法はない。すなわち、本件仮処分命令の土地の特定方法は十二分に正確といえないまでも、公簿面積約一〇町六反にも及ぶ広大な土地を特定するには十分な記載である。各地点の特定は、一次的には県道、砂防ダム、埋め込まれた標石、松の木等一見して明確、不動のものをもってなされているのであり、方位、距離はあくまでその補助的な記載として現わされているものに過ぎない。しかして、右のような一次的記載によれば、その範囲は明らかに緑色線のような土地を画するのである。しかも、右方位、距離の誤りはいずれも僅か数パーセント(たとえば、(イ)点と(ロ)点間では方位において三度三〇分、距離にして一六〇間のうち三間の誤りが存するに過ぎぬ。)であって、社会通念上許容されて然るべき誤りというべきである。

二、本件土地の所有権が既に控訴人から社団法人宝塚ゴルフ倶楽部に移転していることは認める。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、職権によって按ずるに、一般に執行官のした執行方法に対する異議申立は、管轄執行裁判所において決定をもって裁判すべきものであるところ、原審は被控訴人(執行債務者)の本件執行方法異議に対し判決をもって裁判をしたことが、その裁判書の記載内容に照らし明白であるから、原審は違式の裁判をしたものといわねばならない。

したがって、控訴人(執行債権者)としては、もし被控訴人の異議が正当に決定によって認容された場合は、利害関係人として即時抗告をもって不服申立をなすべき筋合であるところ、本件の場合は、控訴人は原審において、形式上、対立当事者たる相手方の地位にあるものとして取り扱われ、敗訴の判決を受けたため、控訴の方式により不服申立に及んだものであることが記録上明らかである。

しかし、控訴人の本件控訴は是認することができる。けだし、控訴人としては、もともと合式の裁判を受けた場合は、当然不服申立をなしうる立場にあったものであり、かつ、その方法を原裁判所のとった裁判形式に対応する方式によってなすことは無理からぬところであり、裁判所が誤って違式の裁判をしながら、当事者に本来の正当な不服申立方法を要求することは酷であり、適当とはいえないからである。

記録によれば、控訴人が原判決正本の送達を受けたのは昭和四七年一二月一八日であるところ、本件控訴は同年同月二八日に提起されたものであるから、右送達を、実質的にみて、決定の告知とみるときはその不服申立(即時抗告)期間を徒過していることが認められるけれども、前記説示の理由により、右の瑕疵は不問に付すべきものである。

また、≪証拠省略≫によれば、本件仮処分手続において控訴人が自己所有地と主張する本件土地は、登記簿上すでに右仮処分発令(昭和四二年一二月二八日)前である昭和三二年三月二九日控訴人から社団法人宝塚ゴルフ倶楽部に売却されたことを原因として昭和四八年三月一二日受付をもって所有権移転登記手続がなされていることが認められ、現在、本件土地所有権が控訴人にないことは控訴人も自認するところであるが、仮りに右登記簿の記載が真実の実体関係を表わすものとしても、それによって直ちに仮処分命令が当然無効となるわけではない。仮りに、右所有権の移転が本件訴訟係属中であったとしても、それは専ら実体法上の問題であって、本件のように債務名義(本件仮処分)をめぐる執行法上の紛争当事者適格を直ちに左右すべきものでないことももちろんである。

二、そこで、当裁判所は控訴審の形式に拠り、控訴人の不服申立の当否を検討する(なお、本件仮処分の内容は(イ)被控訴人の本件土地に対する占有を解くこと、(ロ)被控訴人に対する占有妨害禁止、(ハ)被控訴人に対する本件土地立入禁止を命ずるものであり、そのうち、(ロ)と(ハ)は性質上執行官の執行の観念を容れることはできないものであるから、本件では専ら(イ)の執行の当否について検討すべきものである)。

(一)  ≪証拠省略≫によれば、清水執行官が本件執行にさいし拠った債務名義(本件仮処分命令)の目的土地特定の方法は、被控訴人も主張するとおり、各地点を定めるにつき、本文をもって、県道、砂防ダム、埋め込まれた標石、松の木等を目印しとして各点間の距離を表示する方法をとり、これに見合う図面も添付するとともに、あわせて、これを補充する趣旨で、各本文の次に括弧書きをもって方位、距離を記載していることが認められる。しかして、現実に執行官の執行した土地の範囲は原判決末尾添付図面記入の緑線で囲まれる範囲であり、これは専ら右本文と添付図面によったものであるところ、いま、前記括弧内の補充記載のみによれば、被控訴人主張のとおり赤線のような形状となり、閉じない形の包囲線を形成することとなり、その限りでは本件仮処分の表記には一部喰い違いが存することは、当事者間に争いがないか、または、当事者の明らかに争わない事実関係である。

しかし、以上のような表示、添付図面を全体的かつ合理的に綜合判断し、殊に、被控訴人が誤りを指摘する方位、距離は補充的な表記であり、これなくしても、緑線のような土地の範囲を特定することが十分可能であることに想到すると、右仮処分はその目的土地を緑線で囲まれる範囲に特定しているものと解することができる。前記のような補充的記載のみを取り挙げて不特定を云々する被控訴人の主張にはにわかに左祖することができない。

そうすると、緑線によって執行した清水執行官の所為には何らその執行上違法のかどはない。

(二)  執行に立会した証人山野文治郎が被控訴人主張のような事件関係人であるとの証拠はない。

三、よって、被控訴人の本件執行方法の異議は理由がないから、これと異る趣旨の原判決を取消し、被控訴人の異議申立を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九四条後段を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岩本正彦 判事 石井玄 畑郁夫)

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